オイシックス新潟アルビレックスBCの中山翔太外野手とアスレティックトレーナー兼呼吸コンサルタント大貫崇氏が、アスリートにとっての呼吸の重要性について対談。
オイシックス新潟アルビレックスBCのオフィシャルコンディショニングパートナーで、深い呼吸の習慣化サポートデバイス「ston s(ストンエス)」を開発するBREATHER株式会社主催のもと、大貫氏がオイシックスの選手を対象にした呼吸最適化セミナーを実施。中山選手はそこで学んだ内容を即実践し、その後、7試合連続安打を記録するなど手応えを感じていました。
今回は呼吸最適化・深い呼吸の習慣化がアスリートにもたらすメリットと重要性を解説していただきました。
[中山翔太選手(写真左)]
1996年9月22日生まれ、大阪府出身。
履正社高では3年春のセンバツ甲子園大会で準優勝。法政大に進学し、2年生の秋からレギュラー。4年生春の東京六大学リーグでは打率3割8分をマークし、一塁手でベストナインに選出。18年のドラフト会議でヤクルトの2位指名を受けて入団。23年にヤマエグループ九州アジアリーグの火の国サラマンダーズに入団。24年にイースタン・リーグ参加1年目のオイシックス新潟アルビレックスBCに移籍。185センチ、95キロ。右投右打。
[大貫崇(写真右)]
呼吸コンサルタント/アスレティックトレーナー
高校卒業後に渡米。アメリカの大学・大学院を卒業後、MLBやNBA D-Leagueのチームなどでアスレティックトレーナーとして勤務。
2022年4月に世界に類を見ない「呼吸専門サロン ぶりーずぷりーず」をオープン。現在は呼吸に関連した企業研究や商品開発など法人向け呼吸コンサルティング事業を展開している
目次
コンディショニングにおける呼吸の重要性
――日頃、コンディショニングで意識していることを教えていただけますか?
中山:僕は上半身が固まりやすいので、練習前後に広背筋を伸ばしながら呼吸をすることを意識しています。そうすることで上半身のねじれ方が変わってきます。
大貫:7月にセミナーでお伺いしたとき、広背筋のストレッチをお伝えしました。実は広背筋は呼吸してくれています。広背筋の100のキャパのうち20くらいを呼吸に持っていかれると、当然100を出せない。それはもったいないです。一端、呼吸として使わないようにすると息が吐けるようになって、体が回りやすくなります。
中山:試合日は午前中に練習して、その後、開始まで少し時間が空きます。気持ちが高ぶったまま試合前の練習に入ると、いつ心身のスイッチを切っていいのか分からなくなることがありました。今年は試合前練習後に、大貫先生に教えていただいた呼吸エクササイズを実践し、そこで心身のスイッチを切ることができました。
大貫:そもそもスイッチが入っているのかどうかを感じられているのはすごいです。1回スイッチをオフにしてからオンにするなど、自分でスイッチをコントロールできれば、自分のペースで試合に入れますよね。
中山:あとは、昨年までの自主トレと比べて動作に入りやすく、ケガの心配もあまりしていないです。広背筋を伸ばしたら、スイッチが入るというか。あまり時間がかからずにトレーニングに入れています。
大貫:それはうれしいところです。ウォーミングアップのルーティーンは多いので、やればやるほど練習時間がなくなってしまう。なるべく短くして練習に当ててもらいたいんです。とはいえ、雑にはなってほしくない。だから、これさえやっておけばOKというのを呼吸やトレーニングを通してお伝えできればと思っています。
――野球選手にとって大切な呼吸の意識、呼吸はどういったものになりますか?
大貫:ねじる、回旋という動きは野球選手にとってはとても重要で、実は呼吸を通して改善することができます。空気を抜くという作業が必要になりますが、空気や水がパンパンに入ったペットボトルはねじろうと思ってもねじれませんよね。でも、1度中身を抜いてカラにすると簡単にねじれます。胸郭、体幹、骨盤、股関節と野球はねじる部分がたくさんあるのですが、それを一気に回すと打撃で言う、開きが早いスイングになります。いかに1つずつ遅らせて連動してねじれるようにするかが重要です。また、技術的な面以外ではリカバリーが大切です。ナイターが終わると午後10時、11時。興奮状態からうまく呼吸をして、スイッチを切ってから寝ることで、リカバリーがうまくできます。そうしてシーズンを通して安定したパフォーマンスを保てると、メンタルの質を落とさないことにもつながります。
中山:体のねじれが悪いと不安が残ります。そのためにメンタルが安定しなかったり、プレーにも影響が出てくる。そこで教えてもらった呼吸エクササイズをやっておくと、身体は大丈夫だと安心します。安心材料があるとプレーに集中できますし。試合後にも帰る前に、呼吸エクササイズをやっているんです。取り入れる前は1回の呼吸が浅かったのですが、今は深く呼吸できるようになりました。気持ちも落ちついている、まだ落ちついていない、と分かるようにもなりました。
呼吸最適化後に「7試合連続安打」、呼吸最適化で実感した効果とは
――7月のセミナーでは、どのようなことを全選手に伝えましたか?
大貫:呼吸でいろいろなことができるんですよ、と。呼吸は動作なのでスクワットやベンチプレスなどのトレーニングと一緒です。ただ、トレーニングは10回3セットなど、1回のセッションでできる回数は少ないです。呼吸は1日に2万回くらいしています。その動きを正確にやるほうが早いですよね。アスリートの9割はうまく息が吐けていないという研究結果があるんです。使えていないものをうまく使えるようにするほうが、新しいものをつくるよりも圧倒的に楽です。
中山:吐くことについて、それまでまったく意識していませんでした。自主トレで筋トレをするとき、ただ重りを持ち上げていたのですが、このオフは息を吐いて肋骨が下がっている感覚がしてから、重りを持つようにしています。僕はずっと腰痛があったんですが、これをやり出してからはどんなに重いものを持っても腰痛は出ないですし、持つ重さも上がっていっています。
大貫:肋骨を下げるというのは息が吐けた状態です。肋骨を下げることができれば、上半身と下半身がつながるんです。よく言われる「下半身を使え」というのは肋骨が下がっているかどうかがポイントになります。肋骨が下がったら体幹が使えるので、下からのエネルギーを、持ち上げようとするダンベルに伝えることができるんです。中山選手は全身を使えるようになって、重りが軽いと感じるようになったのでしょう。おそらく、今まで、ご自身で固まりやすいと仰っていたパワーがある上半身を、肋骨が上がっていたために体幹や下半身と連動させて使えていなかったのだと思います。
――7月25日にセミナーがあり、翌日26日の西武戦から中山選手は7試合連続安打を記録しています。どのような変化がありましたか?
中山:呼吸エクササイズを取り入れた影響があると思います。講習会から帰ってすぐに始め、練習中も打球が伸びるようになってきました。このオフのトレーニングで続けていったら来年さらにどのような良い変化が感じられるかとても楽しみです。
大貫:すぐに取り入れて、効果も感じていて、ありがたいです。実際に結果も出てうれしいですね。
日常で実践できる呼吸最適化と、深い呼吸の習慣化をサポートする「ston s(ストンエス)」の活用法
[ston s(ストンエス)]
からだは本来、深い呼吸をもとめている。 深い呼吸の習慣化サポートデバイス、ston s。
日常にもっと深い呼吸を。充電不要の、使い切りタイプ。リモートワークやワーケーション、旅行など様々な場面で、手軽に携帯でき、お試しいただきやすいモデルです。
――一般の方でも簡単にできる呼吸最適化の方法は何かありますか?
大貫:中山選手が実践している呼吸エクササイズ以外には、誰でもどこでもおすすめなのが、みぞおちの骨のてっぺん際のところをグリグリと押す方法です。ここを押して腹直筋を緩めるんです。緊張しそうな時にこれをやると、フワっと息が吐けます。あとは、長く息を吐く時間をつくる。まずは1分間の呼吸を数えるところからスタートしてください。1分間で20回以上は多く、医学的には12~20回が通常ですが、僕らからするとそれでも多いと思っていて。できれば10回以下。6回くらいにしてもらうと血圧が下がるという文献もあります。重要なのは、息を吐く時間を長くすることですね。吸っている時間の2~3倍。吐いたら3秒くらい止めて、鼻から吸う。これを繰り返すといいですよ。
――「ston s(ストンエス)」はどのような場面で使えるでしょうか?
大貫:プロアスリートの中山選手は、プレーの質につながる呼吸エクササイズに積極的に取り組んでいます。でも、一般の方はなかなかやらないと思います。それだったら、日常の呼吸くらいしませんか、というのが僕の立場です。深い呼吸を習慣化するときに「ston s(ストンエス)」が部屋にあれば思い出せます。デバイス1つで、呼吸を意識してもらえればうれしいです。実はこれ、息が吐けていない人が分かる仕掛けにもなっていて、呼吸が浅い人は吐いた時に蒸気が出てしまいますが、息が吐けている人は、ちゃんと吐けている分だけ吸えるから蒸気が出ません。「呼吸!」と思い出してもらうのが1歩目、きちんと吐かなきゃと意識してもらうのが2歩目です。きちんと吐けていると、いろいろな効果が出てきます。気付いたらよくなっていることが多いんです。中山選手もきちんと呼吸したから7試合連続でヒットを打てた、とは思わなかったのでは。気付かないうちに「そういえば…」よくなっているのが呼吸の面白いところです。
中山:腰痛の時は確かに呼吸が浅かったです。大学時代から腰は痛かったのですが、呼吸エクササイズを導入した7月以降はまったく出なくなりました。「そういえば…」です。
大貫:多分、もともと持っている能力が出てきたのだと思います。いきなりパワーがついて、技術が上がって…ではなく。呼吸ができるようになって、本来の力が顔を出してきた。伸び代がいっぱいあるということだと思います。
オイシックス新潟アルビレックスBC×大貫先生の今後の展開
――大貫先生はオイシックス新潟アルビレックスBCと関わって、どのような印象を持たれましたか?
大貫:熱意を感じました。話をする中でみんながこちらに目を向けてくれる感じがしました。中山選手のように、すぐに実践してくださる選手もいて。みんなハングリー。良くなりたい、上に上がりたいという人ばかり。今後も継続的にできれば。中山選手がやっている肋骨を下げるというのがすごく大切で、あらゆるセクションの中でそれができると質が上がります。感覚が鋭くなって、それをプレーに活かそうと思うと、トレーニングのプログラムを変えずにパフォーマンスを向上させられる。あと、これはやらなくてもいい、というものが選別できればほかのことに時間を回せます。そういうところで貢献できると思います。
中山:やはり定期的に見てもらえたらうれしいです。今の状態などを踏まえて会話ができます。その時に応じたトレーニングにも取り組めるので、パフォーマンスも向上すると思います。
――今後、取り組んでいきたいことや、意識していきたいことを教えてください。
中山:今の呼吸エクササイズを続けて、いい状態を保つことが質の高いプレーにつながると思います。シーズン途中から来季を見据えてトレーニングの量を増やしたんです。今までだったらシーズン中に負荷を上げると、脇腹を痛めたりしましたが、今年はそれもなく、打球の強さが出てきました。来年はもっともっといいプレーができると思っています。来シーズンはNPBに復帰することを目指します。
大貫:呼吸に目を向ける時間をつくってみてほしいです。野球じゃない自分を映し出してくれるんです。そこにフォーカスするとストレスが少なく取り組めると思います。リカバリー、睡眠などにも目を向けつつ、ひとまず呼吸だけやっておければ大丈夫という感覚を持っていただきたいです。